アブドルアジーズ王に謁見した横山公使―その2 国王との対話

陛下との対話の内容中、交渉問題及びそれに関連した事項は、前に述べたような理由に依り、一切記述しないこととして、それに関係のない事柄で興味のある点を、二、三茲に摘録して置こう。

サウード国の国内体制問題に関しては、陛下は「ご存知の通り」と前提されて、次のように語られた。「わが国はシャリーア(回教法)を唯一の基礎法とする祭政一致の国にして、シャリーアの前には一切の者は平等である。したがって、いわゆる民主主義の最も完全なる形態は、わが国において初めて見得るものにして、欧州諸国の民主主義なるものは、単に擬制的な強制されたるものにすぎない。シャリーアは、我々アラブにおいては、唯一神アッラーより下されたる聖なる法なるがゆえに、このアッラーを、なんらの条件を付けることなく、純真なる誠心をもって篤信している回教徒にとっては、シャリーアに対して、当然、いかなる強制感も伴わないのは、論をまたずして明らかなるところである」「国防治安の維持等の問題も、したがって我らは、なんら強制的な処置をとろうとしたことがなく、各カビーラ(部族)の長(アミール)に、一切を一任し、アミールは各自自己の聖職を遂行し、なんらか事件がある場合は、自己の責任においてこれを解決し、現在の情勢は身らるるがごとく、かく平穏である」

国際関係問題については、「わが国は、隣接諸国、其他の列強と、絶対親善関係を維持せんことを望んでいる。独伊の枢軸国に対しても、亦英米仏に対してもいずれにも偏するを好まない。日本は東洋の大帝国として尊敬している。共産主義のごときはわが国体上絶対に相容れないもので、我らもこれを徹底的に排撃しているのはもちろんであるが、そもそもこの主義がいかなる外面的形態をとるにしろ、人民自身が実際上先天的にこれに近づきえないことは、御承知の通りである。ただしかし、例えば防共協定のごとき政治的形式の内容を有するものには、今直ちに参加しようとは思わない。すなわち思想的には、我らが排撃する以前において、すでに人民自身において、これを問題としていないもので、もちろんわが国にこれが潜入するがごときことは、考えることすら出来ない。したがって政治的に圧迫する必要もおこらない」

ユダヤ人問題に付いては、「ユダヤ人こそ、欧州における現在の弱肉強食の情勢を齎らしたものである。パレスチナの我が同胞に対しては、我らはあくまで、援助の手を差し延べるを惜しまない。これは先だっての余の米大統領ルーズヴェルト宛親書においても、明にしたところである。実にユダヤ人こそ、世界平和を攪乱するものにして、日本においても我らのこの闘争に対し支援されんことを庶幾する次第である」(このユダヤ人問題を話される時の陛下の態度は、他の問題とは違い非常に熱を帯びていた)。

転載:「アブドルアジーズ王の生涯」
日本サウディアラビア協会出版